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執筆者の写真コスタリカ社会科学研究所

【当研究所が独断で選ぶ、戦争に関する蔵書10選】

更新日:2023年1月30日

◾️戦争が終わるから武器を置くのではなく、武器を置くから戦争が終わる

 ロシア軍によるウクライナ侵攻から約3ヶ月が経過しました。この事態をどう捉えるか、いまだに多くの人たちの間では意見が四分五裂しています。そこで役に立つのは、これまで先人たちが蓄積してきた知恵です。

 戦争を経験していない(であろう)私たちは、戦争に対する想像力を働かせるにも限界があります。戦争とは究極の暴力状態であり、戦争のない状態しか知らない人にとっては文字通り「想像を絶する」現象だからです。

 当研究所では、その研究領域として平和学を射程に入れています。そのため、資料室には戦争に関する書籍や資料も多数揃えています。そこで今回、当研究所が所蔵する本の中で、所長及び司書が推薦する蔵書5点を、皆様にご紹介したいと思います。気になる本がある方は、ぜひ当研究所までお問い合わせください。ご来所いただければ無料で貸し出しも可能です。


●所長5選

▶︎ジョニーは戦場へ行った(ドルトン・トランボ、信太英男訳、角川文庫、1972年)  若いジョニーを砲撃が襲う。気がつけば彼は腕をもがれ、脚を失い、目も耳も鼻も口もなくなっていた。絶望の中、横たわるしかない病院のベッドから、他者とのコミュニケーションを試みるジョニー。声も出せず、目線も送れず、身振り手振りも表せないジョニーの必死の問いかけに、ついに応答が返される。その答えに絶望した先に悟った真理とはーー。所長が最も衝撃を受けた、中学時代の課題図書。


▶︎エヴェラルドを探して(ジェニファー・K・ハーベリ、竹林卓訳、新潮文庫、1998年)  グアテマラ内戦で行方不明となった夫の身に起きた真実を求めて行動を起こした米国人弁護士の自己記録。彼が私を残して自殺などするはずがない。愛と真実を求める闘いは、やがて母国CIAの闇をも暴き出す。戦争はひとつの集合的事象ではなく、一人ひとりの悲劇が何千・何万・何十万・何百万と積み重なっている多重的事象群なのだ。どんなフィクションより壮絶な、愛と闘いのノンフィクション。


▶︎新・戦争のつくりかた(りぼん・プロジェクト、マガジンハウス、2014年)  現在私たちが享受している平穏な生活から、どのようにして戦争にまでたどり着くのか、その道筋をわかりやすく説明した本。戦争は他人事ではなく、現在進行形で私たち自身に問いかけられている問題だということがとてもよくわかる。易しい文体と挿絵でわかりやすく綴られた、現代必読の書。


▶︎イラク戦争を検証するための20の論点(イラク戦争の検証を求めるネットワーク編、合同出版、2011年)  イラク戦争に関わった国々では公的機関による検証が行われてるが、日本では行われないままになっている。歴史に学ばないものは、同じ過ちを繰り返し、ひいてはより悪い事象をも引き起こす。この本が未だに有効性を保っているのは、イラク戦争の検証を求めるネットワークにささやかながら片足を突っ込んだものとして忸怩たる思いを禁じ得ない。私たちが同じ過ちを繰り返さないために、避けて通れない一冊。


▶︎戦争はなぜ起きるか(佐藤忠男、ポプラ社、1974年)  映画評論界の大御所、佐藤忠男による古典的名著。所長が生まれた翌年に初版が発行され、未だに売れ続けている事実が、この本をして名著と呼ばしめる証左となっている。戦争の根本的要因としての南北(構造的貧困)問題や民族・宗教対立、はては「平和学」の必要性など、現代でも通ずる問題意識を多数提起している。対象年齢は小学生なので極めて読みやすく、もちろん大人でもじゅうぶん読み応えがある。所長は9歳で読了。


●司書5選

▶︎もっとおおきなたいほうを(二見正直作、福音館書店 2003)  先祖伝来の「たいほう」を打ちたくてたまらないおうさまに、きつねという敵が現れて⁉︎ユーモラスな物語に、様々なことを考えさせられます。お子さまはもちろん、大人にもおすすめです。


▶︎ちっちゃいこえ(アーサー・ビナード脚本 丸木俊・丸木位里「原爆の図」より、童心社 2019)  2012年から7年がかりで作り上げられた、「原爆の図」を元にした紙芝居、ネコの「クロ」が語ります。「サイボウ」がちょっと難しいかもしれないけれど、小さな子にも「ちっちゃいこえ」はきっと伝わるはず。


▶︎戦渦の中で:ホロコースト生還者による苦闘と希望の物語(マリオン・イングラム著 村岡美奈・北美幸・寺田由美訳 小鳥遊書房 2020)  収容所行きは免れたものの、ハンブルグ空襲大火の渦中に一命を取りとめ、その後も苦難の日々を過ごした少女時代が、読んでいて苦しいほどに描かれています。姉妹編の『平和の下で:ホロコースト生還者によるアメリカの公民権のための闘い』と共に、訳者のお一人・北美幸先生から資料室にとご恵贈いただきました。


▶︎夜と霧 新版(ヴィクトール・E・フランクル著 池田香代子訳 みすず書房 2002)  アウシュヴィッツを体験した心理学者による、人類の必読書とも言えるこの一冊。原著は1947年の出版、日本では1956年に霜山徳爾氏の訳で出版されて以来、現在も入手できるようです(巻末に、当時の日本人向けに独自に付されたという「解説」「写真・図版」あり)。当研究所に所蔵しているのは、1977年改訂版の新訳。池田香代子氏サイン入りです。


▶︎知らなかった、ぼくらの戦争(アーサー・ビナード編著 小学館 2017)  アーサーさんという聞き手を得て語られる、23人の「戦争」は、本当に知らなかったことばかり!悲惨な、過酷な体験をなさった方々が、アーサーさんと一緒にいい顔で写真におさまっていて救われます。そこで終わってはいけないのだけれど。


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■戦争が終わるから武器を置くのではなく、武器を置くから戦争が終わる

 ロシアとウクライナの間では、和平交渉の機運がなかなか高まっていません。裏で駆け引きが行われているはずですが、まだ表に出てくる段階ではないようです。その間にも、刻一刻と死者・犠牲者は増え続けています。

 もちろん最終的な着地点は「和平」、つまりロシアもウクライナも納得できる未来の共同建設計画に対する合意と実行ですが、そこにたどり着くための最初のフェーズは「停戦」です。一時的なものであれ、砲弾が飛び交う状況を止めなければ、和平交渉の雰囲気も醸成されません。つまり、「和平交渉が成立してから殺し合いを止める」のではなく、「和平交渉のためにまず殺し合いを止める」必要があるのです。 「勝つまで戦う」というのは一見勇ましく思えるかもしれません。が、戦乱の中にあって銃を置くことこそ、最も勇気ある行動です。互いの主張は主張として、その主張を互いに出し合い、その落とし所を探るためにこそ、いますぐ銃を置く決断が両国首脳陣に求められます。

 その間、私たちができること、やるべきことはたくさんあります。その第一ステップは、「知ること」です。それは単に事実を知ることだけでなく、考え方を知ることも含みます。当研究所では、皆さんが平和のために知るべきことを引き続き発信していきます。これら10冊の本は、その手始めです。


 なお、当研究所の蔵書については、こちらから検索できます!


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