<エレディア市中心部に到達した独立トーチリレー>
2021年9月15日。
COVID-19が猛威を振るう中、期待されたような高揚感は望むべくもありませんでしたが、それでもコスタリカは、他の中米4カ国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア)とともに「独立200周年」を祝いました。
弊所代表の足立は、想定外の「コロナ禍」の真っ只中で迎える200周年の意義を確かめるため、現地に赴きました。結果、ひとつの重要な発見に至りました。
それは、「神話の書き換え」です。
コスタリカ人たちは、1948年の軍隊廃止宣言以来、「軍隊のない平和主義国家」であるという<神話>を語り継いできました。軍隊の定義、軍隊廃止宣言以降に起こった外部からの軍事侵略に対する対応などを厳密に考えると、「どの時点から<丸腰国家>(これは足立の造語)」であったのかを定義するのはそれほど簡単ではありません。少なくとも、1948年の軍隊廃止宣言から100%丸腰国家だったとするには、議論が必要です。
しかし、今それを疑うコスタリカ人はほとんどいません。それは、1948年12月1日のホセ・フィゲーレスによる軍隊廃止宣言が「軍隊のない平和主義国家」のスタートラインであることには間違いないことと、フィゲーレスたちの革命の英雄譚が、その後の脱軍事化をめぐる諸議論をかき消したことにあります。そのため、「1948年からコスタリカは平和主義国家だった」と言い切るのは、若干神話的要素が含まれていると考えることができます。
しかし、コスタリカの平和主義はそれ以前に遡ることはあまりありませんでした。
もちろん、まったくなかったわけではありません。コスタリカの平和主義の精神的源泉は、独立以降の平等的小農主義思想にあるという議論も根強くありますし、もっと遡れば植民地時代、知事(現在の大統領にあたる)までもが自分の畑を耕さねば生きていけなかったというような「平等貧困論」も唱えられてきました。しかし、「公的」には、コスタリカは「1948年から平和主義国家」となったとする考え方が一般的な合意として成立していることは、たとえば外国人観光客向けのお土産品の多くにそうプリントされていることからも窺い知ることができます。
ところが、この200周年を機に、平和主義国家の期限となる年号が書き換えられはじめるという現象が、今回の訪問で目につきました。たとえばこの写真です。
これは、コスタリカの空の玄関口であるフアン・サンタマリア国際空港の電子広告パネルです。左側には、このように書いてあります。
"Así es como la Libertad se ve"
"En lugar de un ejército marchando, nuestras calles se llenan de bandas de niños desfilando"
"200 años de independencia"
日本語に訳すと、以下のようになります。
「自由というのはこのような光景を指すのだ」
「軍隊の行進のかわりに、子どもたちの音楽隊の行列が我らの通りを埋め尽くす」
「独立200年」
コスタリカ人たちにとって、軍隊不保持に基づく平和主義と、自由や人権、民主主義などは、一体不可分の統合的価値観です。ですからここでは「自由」が主題となっていますが、その内容は軍隊を持たないことの描写となります。ここまでは、従前の神話と変わりません。
変わったのは、そこに「独立200周年」が付加されたことです。
思い起こしてみれば、カルロス・アルバラード政権が誕生した2018年から、同大統領およびその政府は、ことあるごとに、あらゆるものごとを「200周年/bicentenario」という単語とセットで広報し続けてきました。
そもそも、同政権の”謳い文句”は"El Gobierno Bicentenario"(200周年政府)です。
また、該当年である2021年は、「持続可能国家」として脱炭素化に向けたさまざまな取組のなかで重要なチェックポイントもしくは一里塚とされてきました。そのため、エネルギー問題や脱炭素化問題に関して大統領が声明を発表する際などには、必ず「200周年」という言葉がセットになっていたのです。
また、「持続可能国家」は、「丸腰国家」の延長線上の物語として語られてきました。軍隊廃止70周年記念式典では、もはやメインの話題は持続可能国家の建設にシフトしていたほどです。
つまり、アルバラード政権は、2018年のスタート以来、
①「丸腰国家」の次の章としての「持続可能国家」神話の<未来方向への延長>
を積み重ねつつ、ことあるごとに200周年を意識させ、200周年を契機に
②「丸腰国家」を軸としたコスタリカ神話の<過去への延長>
を企図したのではないか、ということです。
現代を生きるコスタリカ人がこの神話を受け入れた時、「200周年政権」は以上のような評価を受けることになるでしょう。
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