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執筆者の写真コスタリカ社会科学研究所

12月定例カフェのお題は…「野蛮」!?

 今月も定例カフェ「Café a la Tica」、ゆるゆると開催いたしました。



 先月から連続でお越しいただいたSさんとの談笑のお題は今回も多岐に渡りました。

 そのうちのひとつは、野生動物への接し方。


 ちょうど弊所から近い博多で「珍獣展」という催しをやっているのですが、企画自体コスタリカではありえない話です。というのは、コスタリカではそもそも娯楽目的での動物の展示が禁じられているからです。

 特に哺乳類や鳥類に関しては厳しく、現在では、唯一公立の施設として首都サンホセに長くあり続けたシモン・ボリバル国立動植物園が、残された動物たちのケアをしながら環境教育などを行なっています。

 観光客がケージに入った動物を観察できる施設はいくつか存在しますが、すべてレスキューセンターで保護された動物で、野生に戻すトレーニング中か、もしくは野生に戻れないと判断された個体だけ見ることができます。つまり、私たちがコスタリカの檻に入った動物や鳥を見たければ、レスキューセンターにお金を払うということになります。それが彼らの動物レスキュー活動資金となるというわけです。

 それ以外に、蝶類と一部の爬虫類(特にヘビ)および両生類(特にカエル)に関しては、研究・保護・繁殖と展示を行う施設がいくつかあります。これも入場料が研究・保護・繁殖活動の資源となっています。

 私(所長)が知る唯一の例外として、África Míaといういわゆるアフリカン・サファリ施設があります。私の専門外なのでこの法的位置付けは確認できていませんが、存在している以上非合法ではないでしょう。いずれにしてもケージや鎖つきでの生態展示ではありません。また、現在この施設で新たに増える動物はすべて園内繁殖したものであり、輸入等はされません。原生種以外の動物を観光で見られるという意味では、シモン・ボリバル動物園以外ではここ以外になく、コスタリカ国内では異例の存在です。


 逆にいうと、コスタリカではこれだけしかありません。

 そもそも、コスタリカに必要なのは動物園ではなく、ましてやいきものカフェでも「珍獣」展でもなく、野生動物を保護し、生物多様性を保全して、彼らを野生で観察できるチャンスを増やすことです。


 「珍獣」という言葉にも違和感があります。それは極めて自己中心的な視点からの物言いだからです。件の珍獣展にはナマケモノやイチゴヤドクガエル等も「展示」されているようですが、どちらも私たちが企画・運営している生物回廊農園「なまけものの通りみち」およびそれを含むトラピチェ統合農園の中で、普通に生きています。珍しいものではありません(ただし保護が必要なほどに数は少ないし極めて脆弱な状態ではあるのですが)。もちろん運が悪ければ見ることはできませんが、わざわざ「展示」するようなものではないのです。見たければぜひ、トラピチェ統合農園をご訪問ください。歓迎いたします。


 また、野生生物との不必要・不用意な接触も、コスタリカではタブーとされています。イヌ・ネコなど種としてペットとなっている動物や、牛や豚、馬などの農牧畜用に飼育される動物などの家禽類を除いては、レスキュー時など以外は野生動物に餌をやることはもちろん、触ることもいけません。

 それどころか、狩猟も全国的に禁止されています。スポーツ狩猟はもちろんのこと、食用でもダメですし、増えすぎたからといって「駆除」するのもダメです。


 コスタリカでも、野生動物による人間の危害は毎年報告されています。今年は国内のプロサッカー選手がワニに襲われて死亡するという痛ましい事件も起きました。だからといってワニを駆除しようという話にはなりません。あくまで「どのように共生するか」が問われます。ここが「その社会において共有される価値観」の違いです。


 それを考えると、日本原生種でもなければ日本という環境に適応することすらできないような多くのいきものたちをカゴに入れ、あるいは鎖でつないで展示し、それで入場料はおろか、挙句には餌やりで商売をするなど、コスタリカの哲学からするとちょっと考えられません。コスタリカ基準で見ると、これは「野蛮」にしか見えない行為というわけです。


 私たちは、「人類は社会的に進化できるし、その先によりよい未来を建設することが可能になる」ということを前提として調査研究活動を行なっています。その立場からすると、ここ日本社会で共有される価値観はもう少しアップデートが必要なのではないか……。そう考えさせられたカフェでした。

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